中国の一人っ子政策の概要とその問題点について
・序論
一人っ子政策は、人口爆発を回避するために、いくつかの例外的な場合を除き、中国の人々は子どもを一人しか作ってはいけない、という政策で、1970年代初めから続けられている。中国がこのような政策を始めねばならなかったのは、1950-60年代に、人口は多い方が戦争にも生産力増加にも良い、という「人海戦術」を毛沢東が考え出し、多産を奨励したためである。
当時は、5-6人の子どもがいる家庭が普通だった。毛沢東が政治の一線から退いた後、ようやく中国政府はその政策を改めることができた。それから約20年、一人っ子政策は特に大都市において強力に推進され、ほぼ完ぺきに浸透していた。
しかし、1997年から中国政府が、一人っ子政策の見直しを始めている。上海などの大都市に住む、外資系や一流企業の社員、医者など若手エリート層の夫婦に、二人目の出産を認め始めたが、夫婦が一人っ子どうしであることが条件になっている。二人目の子どもを生むことは、次第に広い範囲で認められる方向にあり、遅くとも2010年までには、一人っ子政策は廃止される見通しである。しかし人口の多い中国では規制が全くなくなるわけではなく、「二人っ子政策」のような規定が残るだろう。
中国の一人っ子政策はこれまで、農民や少数民族に対しては比較的寛容だったが、大都市住民に対しては厳しかった。大都市がスラム化することを防ぐためと、「農村が都市を包囲する」戦略で成功した中国革命の後、中国共産党は農民を味方とし、都市の知識人を敵視する考え方を続けてきたためである。だが、そうした政策を、根本から見直さねばならない矛盾が発生している。 子どもや青年が少ないため、大都市では高齢化が急速に進んでいるのである。65歳以上の割合としては7.11%、0〜65歳以上の割合92.86%(2001 OECD経済開発協力機構)
全国で,出生率はすでに1000人当たり15.95%に低下しており,上海では5.40%にまで低下している(2001 OECD経済開発協力機構)。こうした状態が続けば、今後ますます高齢化が進んでしまう。
実は、中国の高齢化は先進国よりも厳しい問題だ。多産だった1950-60年代に生まれた人々は、最初の世代が50歳になっている。すでに定年になっている人もおり、年金を支払わねばならない。しかし、その下の1970-2001年代生まれは一人っ子世代なので数が多くない。日本や欧米に比べて、より少ない若者で、より多くの老人を養わねばならないのである。
さらに、もう一つ困った問題は、中国の国営企業の多くが、倒産の危機に瀕しているということである。中国では、国家的な社会福祉や年金制度というものがない。これまでは政府に代わり、企業や役所単位で、従業員に対する定年後の年金制度が設けられていた。中国の国営企業は、企業内で病院や学校も運営していた。
だが、中国市場には外国製品が急増し、商品が売れなくなって久しい国営企業の多くは、すでにそのような資金力を持っていない。中国政府はすでに、利益が出ない国営企業はどんどん倒産させる、と宣言し、実際に失業者も3.1%(2000、OECD経済開発協力機構)と増えている。こうした状況で高齢化社会に突入すれば、極貧状態に置かれる老人が増えることは間違いない。中国は社会主義の理想から、どんどん遠ざかっているのである。
中国政府の大都市での一人っ子政策見直しには、教育水準が高い夫婦から順番に二人目を生ませ、そうではない夫婦にはすぐに二人目を認めない。中国政府はこの政策変更をなるべく表沙汰にならないようにしていた。政策変更がわかったのは、2000年10月中旬に北京で人口問題を論議する国際会議が開かれ、その前に会議参加者が明らかにしたためだった。
しかし、今や中国の大都市に住む若者の多くは、二人以上の子どもを欲しいとは思わなくなっているという。若い女性は子育てより自分の職業に磨きをかけるキャリア志向が強くなっている。そのため上海のエリートに対しては、二人目を生むことを「認める」というより、「奨励する」という状況である。
ただし、同じ中国でも、農村の人々は、まだ「子どもは何人でもほしい」という考えの人が多い。農村で子どもは貴重な労働力だし、大家族制は変わらないからだ。上海では人口増加が止まっており、労働力不足を補うために、企業は農村からの出稼ぎ労働者を多数集めるようになった。
だが中国政府が子どもをもう少し生んで欲しいと思っている対象は、こうした人々ではない。以前は農民を味方としていた中国共産党だが、今や頼みとしているのは外資系企業に勤める若手エリートなのである。
だからなのか、ある中国人家庭に話を聞いたところ、日本(もしくは外国)にいる間に生まれた子はそのまま中国へ連れて帰っても何ら問題ないのである。だから海外で第二子をもうける家庭が少なくない。
なぜ海外でもうけた子供は連れて帰っても問題ないのか。
この疑問から、今なぜ中国が国家の基本政策として「一人っ子政策」を取ったかを考えてみたいと思った。同時に,その政策の実行によって中国社会にどのような変化が生じているか。当の本人、一人っ子たちはどう思っているのか。「一人っ子政策」の抱えるひずみ、歪みといった影の部分にも光りをあて、今問われていることは何かについても考えてみたいと思う。
目次
序論…………………………………………………………1
1章・中国の国土と人口 …………………………………3
1・中華人民共和国
2・人口
2章・一人っ子政策 ………………………………………4
1・人口政策の主柱
2・一人っ子政策の登場
3・一人っ子政策の第四段階
4・都市レベルの政策
5・計画出産
6・人口目標管理責任制
3章・一人っ子政策の問題点……………………………13
1・中絶の増加
2・男女比のアンバランス
3・戸籍のない子供の増加
4・高齢化と社会保障
5・社会保障体系
6・人口抑制の“ツケ”
7・小さな皇帝と呼ばれる一人っ子たち
4章・一人っ子たちの悩みと日本人学生との比較……19
終章・まとめ………………………………………………21
参考文献
|
加藤千洋 |
中国の「一人っ子政策」 : 現状と将来 |
岩波書店 |
1991 |
|
細谷昂 [ほか] |
沸騰する中国農村 |
御茶の水書房 |
1997 |
|
アジア人口・開発協会 |
世界人口・開発援助の現状 : 日本の貢献. |
|
1996 |
|
市原亮平編著 |
『人口論』と中国人口問題 |
晃洋書房 |
1981 |
|
若林敬子著 |
中国の人口問題 |
東京大学出版会 |
1989 |
|
莫邦富著 |
独生子女 (ひとりっこ) : 爆発する中国人口最新レポート |
出書房新社 |
1992 |
|
毎日新聞社人口問題調査会編 |
中国の人口と雇用 |
毎日新聞社人口問題調査会 |
|
|
若林敬子 |
中国人口超大国のゆくえ |
岩波書店 |
1994 |
|
若林敬子編 ; 杉山太郎監訳. |
ドキュメント中国の人口管理 |
ドキュメント中国の人口管理 |
1992 |
|
王勝今 |
中国人口増加の分析 |
時潮社 |
1985 |
|
早瀬保子, 川俣青子 |
中国の人口政策と人口動態統計 |
アジア経済研究所統計資料シリーズ ; 第56集 |
1991 |
|
早瀬保子, 川俣青子編. |
中国の人口統計 |
アジア経済研究所統計資料シリーズ ; 第55集 |
1990 |
|
早瀬保子編 |
中国の人口変動 |
研究双書 |
1992 |
|
ジュリア・ウォーターロー 今西大 今西智子訳 |
中国 : 世界最大の人口をかかえて |
鈴木出版 |
2000 |
|
陳丹燕著 ; 中由美子訳. |
一人っ子たちのつぶやき |
てらいんく |
1999 |
|
若林敬子 |
現代中国の人口問題と社会変動 |
新曜社 |
1996 |
|
王曙光ほか編 |
最新教科書・現代中国 |
柏書房 |
1998 |